建物維持管理支援システム(LCMシステム)について

【はじめに】

 建物の長期修繕計画は、建物をその生涯に渡って健全に維持・管理してゆくためのマスタープランとして広く認識されつつあります。
 通常、長期修繕計画情報の管理は、予め計画された修繕や更新の時期を表計算シート上に単に記入しただけのものである場合が多く見られます。
 しかし、この方法だと修繕や更新の実績情報を記録したり、その実績情報を将来の修繕計画の見直し作業に反映させることができません。
 このため実際は大規模修繕の後にその都度、長期修繕計画を作り直しているというのが実状ではないでしょうか。 ロンドン
 ※:毎朝お届けする水彩画 四季水彩より

 LCM(Life Cycle Management)システムは、建物の長期修繕計画情報ををその生涯に渡って維持・管理するWebソフト(PCのWebブラウザから起動して利用するソフト)です。
 システムには建物の部位や設備機器の各部位の劣化進行状態を過去の修繕や更新の実績に基づいて簡易予測する独自の仕組みが組込まれています。

 例えば、計画されている標準規模の修繕ではなく、実際には小規模の修繕しか行われなかった場合であっても、その実施された度合いが劣化の進行度合いの予測に反映されます。従って次回の修繕または更新までの予測期間は標準のそれよりも早まる、という予測結果を表示します。
 この機能によって、システムに登録されている建物の各部位ごとの将来の修繕・更新の実施時期を判断したり、ある時点における修繕工事の対象部位を特定し、それらの修繕・更新工事に向けたタイムリーな劣化診断や点検の実施時期を容易に知ることができます。

 LCMシステムでは、(修繕改修計画作成修繕改修計画監視劣化調査診断修繕予算配分計画→[修繕工事]→修繕改修計画の更新・見直し修繕改修計画監視・・・)の建物のライフサイクルを繰り返しながら、建物のカルテとなる修繕・更新履歴情報の保存と将来の劣化進行状態を建物の生涯に渡って予測・監視し続けることができます。 ひじりばし
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 このシステムの主な機能や特長と共に、このシステム特有の考え方に基づく用語などについて以下に説明します。トップに戻る

◇◇ システムの主な機能と特長 ◇◇

 現在LCMシステムの長期修繕計画支援システムには長期修繕計画に必要な以下の機能があります。トップに戻る

□ 建物長期修繕計画モデルの作成・維持管理機能の概要 □

 長期修繕計画モデルは一つの建物とそれを構成する複数の部位によって構成されます
 例えば、同一敷地内に高層棟や低層棟など複数の建物で構成されるマンション群をはじめ、複数の施設を管理する場合は、それぞれの建物毎に長期修繕計画モデルを作成する方法をお奨めします。
 (なお、トップメニューの「建物長期修繕計画の体験」にて実際の建築の部位や設備の長期修繕計画モデル情報の詳細やシステムの表示内容を体験することができますので、是非一度お試しください。)

 建物や部位に関する以下のパラメータを入力するだけで、建物の長期修繕計画モデルが自動生成されます。
 建物に対して指定する主なパラメータには以下のものがあります。

 ・建物名称
 ・建物延べ床面積
 ・建物再成コスト
 ・モデル生成年数
 ・建物竣工年
 ・物価上昇率
 など

 建物を構成する各部位に対して指定する主なパラメータには以下のものがあります。

 ・部位名称
 ・部位数量
 ・部位修繕単価
 ・部位更新単価
 ・部位自然更新寿命
 ・部位標準修繕回数
 ・部位更新寿命延伸率
 ・部位劣化顕在化閾値
 ・部位法定耐用年数
 など
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□ 建物維持管理履歴情報の管理機能の概要  □

 部位や設備についての履歴情報を管理します。
 管理する履歴情報には以下のものがあります。
 ・障害履歴情報管理
 ・改修工事履歴情報管理
 ・検査履歴情報管理
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□ 建物長期修繕計画モデルに基づく修繕積立積立計画シミュレーション機能

 指定された保全レベルを維持するために必要な建物の修繕・更新コストを僅かなパラメータを指定するだけで容易に知ることができます。
 この計算結果を年間修繕積立の計画長期修繕計画(実施計画)の立案や検討に役立てることができます。
 なお、上述の計算条件に含まれている割引率達成維持目標FCI(Facility Condition Index:施設劣化状況指標)、建物取得時期および使用期間などのシミュレーション・パラメータを活用して[保全維持レベルに応じた所要コストの範囲の探索]や[建物の経済的な使用期間:建物の経済的寿命]など、アセットマネジメントに役立つ情報もこのシミュレーションによって得ることもできます。
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□ 建物劣化調査診断支援機能の概要 □

 建物の劣化診断調査は、長期修繕計画モデル上で管理されている建物構成部位の修繕・更新計画時期に合わせて専門家により実施されます。
 建物の劣化診断調査では、部位の劣化進行状況の把握とその状況に応じた修繕または更新などの適切な判断・対応がなされます。
 本システムには、専門家による部位の劣化進行度の判定結果の入力を支援します。またその際には、この作業に続いて実施される「改修予算配分計画」の際に必要となる情報も同時に自動設定されるため業務の効率化が図れます。
 なお、劣化診断判定は外部の専門家に委託するケースも考えられるため、彼らが本システムを利用する際、一時的にシステムに登録されている修繕・更新などの金額情報が非表示となるオプション設定機能が備わっています。
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□ 改修予算配分計画プロジェクト支援機能の概要 □

 改修予算配分計画プロジェクトには、建物(複数も可)の劣化診断調査結果を基にその劣化の進行度合いに応じた各部位の優先度評価が行われ、それに基づいた改修予算の配分を行う仕組みが組み込まれています。この機能を活用することで、予算配分計画の最終目的である、「限られた改修予算の範囲内で出来るだけ各建物の健全性レベルの維持を図る」という改修予算配分計画作成の実現を支援します。
 予算配分の評価プロセスが明確であるため、予算配分計画結果に対する経営者への説明が容易になります。
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◆ LCMシステムのユーザについて ◆ 

 LCMシステムのユーザは以下の4種類のユーザに分類されます。


りす
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================= 用 語 の 説 明 ==================

建物名称:

 他の建物のデータとを区別するために付ける建物の略称です。
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建物延べ床面積:

 建物の総床面積(㎡)のことです。厳密な精度の値でなくともかまいません。機能概要トップに戻る

建物再成コスト:

 建物の建設総額(従って土地取得費用などは含めません)を指定します。
 正確な値が不明な場合は、同等級の他の建物の平均的な建設コスト(例えば「坪単価」に延べ床面積を乗じて算出された値)で代用させても良いと思います。
 建物再成コストは、建物の維持状況(つまり、現在どの程度に維持保全がなされているかの維持健全性)を評価する際の一つの指標FCI:Facility Condition Index)の算出に用いられます。
 FCIとは、現在、建物に残存する不具合(ここでは、現在修繕・更新を行うべき状態に達しているのにまだ放置したままの状態になっている状況のことを「累積不具合」と呼ぶことにします)を金額換算した値とこの再生コストとの比率の算出に分母の値として用います。つまり、修繕・更新を行うべき状態をまだ放置したままの状況での悪さ加減を金額換算し、それが建物の価額(つまり建物再成コスト)に対してどれくらいの比率になっているかを見ます。
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 FCI(Facility Condition Index):

 建物の維持健全度を財務的に評価する指標
   計算式: FCI = 残存不具合累積額 ÷ 建物再成コスト

FCI値が示す建物維持健全状態の目安
FCI値(%) 状態
10 ~    悪い状態
5 ~ 10  要注意
0 ~ 5  良好な状態

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割引率:

   分譲マンションなどの管理組合側にとっては、費用の計算には単なるお金の時間的価値を考慮した計算(正味現在価値NPV)が目的なので、割引率は長期国債金利の利率程度の値としておけば問題ないでしょう。一方、企業が利用する建物など、建物の所有が投資活動の一環である場合、一般的に割引率にはその企業の資本コストにリスク分を加えた値を設定するのが正しいのですが、ここではあまり厳密に考える必要はないと思います。なお、各々の企業における割引率をいくらで考えておくかは財務担当役員がお決めになる事案となります。
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モデル生成年数:

 長期修繕計画モデルの作成年数は建物の使用寿命に合わせた年数を指定します。マンションの場合は通常、竣工から47年~60年程度とすることが多いようです。
しかし、これらの値については特に明確な理由があるわけではありませんが、建物の使用年数、つまり建物寿命を決める際の考え方の一つとしては、費用対効果(つまり、建物に対して投下される修繕や更新、その他の維持保全などのトータル費用と最終的な建物の残存資産価値とのバランス)の考え方をベースにした建物寿命の決め方があります。詳しくは「建物長期修繕計画モデルに基づく修繕積立計画シミュレーション」の節を参照ください。
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竣工年:

 建物が竣工した(築ゼロ年)の年(西暦年)のことです。
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物価上昇率:

 指定した修繕および更新工事費用が決められた年を基準年(つまり物価上昇率ゼロの年)とした場合の年間物価上昇率を指定します。このことによって、最初に設定した修繕および更新などの費用を基に自動的に将来の費用を算出し、処理に使用されます。
 ただし、年間物価上昇率を予め決めて指定することが煩わしい場合は、上昇率を「ゼロ」と指定しておき、実際利用する際に改めて費用の値に過去からの物価上昇(低下)を考慮した数値を工事概算費用とすることでもシステムの利用上は一向に差し支えはありません。
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部位名称:

 同建物内の他の部位のデータとを区別するために付ける部位の略称です。分類整理して特定の部位の検索をし易くするために部位は大・中および小区分に分類して登録します。
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部位数量:

 修繕や更新工事の対象規模の把握と各々の工事費用の算出に使用されます。(例えば、部位名称が屋上屋根防水の面積は1136㎡など)
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部位修繕単価:

 部位の単位数量当たりの修繕工事費用、つまり単価(千円/単位数量)のことです。この部位修繕単価に部位数量を乗じて部位の修繕工事費用の算出に使用されます。
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部位更新単価:

 部位の単位数量当たりの更新工事費用、つまり単価(千円/単位数量)のことです。この部位更新単価に部位数量を乗じて部位の更新工事費用の算出に使用されます。
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部位自然更新寿命:

 一般に部位や設備の更新までの期待される期間(更新寿命)は経験やメーカからの提供される値が利用されています。しかし、期待される更新寿命を確保するためには、その期間途中での幾度かの修繕の実施が前提となります。
 この修繕をしっかり行うことで更新までの寿命が期待されるのであって、途中の修繕工事の時期を極端に遅らせたり、省略した場合は更新寿命期間が短くなってしまう危険性があります。

 部位の自然更新寿命は、このシステムで採用している便宜上のパラメータの一つです。ここでは、更新までの期間中、本来行うべき修繕が一度も行われなかった場合の更新寿命をここでは部位の自然更新寿命と定義しています。

 例えば、屋上防水の更新までの期間は一般に竣工から約16~20年後に行われますが、更新期間までの途中、約8年~10年後に修繕工事が一回行われることが前提となっています。

 屋根防水や外壁タイルなど、建物を構成する各部位には更新するまでの期間(つまり更新寿命)が経験上、概ね決まっています。この更新寿命を延伸する手段として通常、更新までの期間の途中で幾度かの修繕が行われますが、その修繕の回数は部位や設備によって夫々異なります。

 当然のことながら、更新までの期間途中で標準的な修繕を行った場合は、その部位の更新寿命は上述の自然更新寿命よりも長くなることは容易に理解頂けると思います。
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部位標準修繕回数:

 その部位の更新までの期間途中に行うべき修繕の標準的な回数のことです。修繕の標準回数は部位や設備毎にことなります。

 例えば、「屋上屋根防水」工事などでは更新までの期間の途中で1回の修繕が行われる維持・保全サイクルを繰り返すパターンで長期修繕計画が作成されます。

 一方、部位によっては修繕がなく(つまり部位標準修繕回数がゼロ回)更新だけの維持・保全サイクルを繰り返す部位もあります。例えば、「共用灯取替」工事などでは修繕は無く、共用灯の交換のみの繰り返しで保全されます。
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部位更新寿命延伸率:

 部位に対して本来行うべき標準回数の修繕が行われたと仮定した場合に期待される自然更新寿命の更新寿命に対する伸び率のことです。

 例えば、自然更新寿命が15年である部位の場合で、もしも標準回数の修繕を行うことで更新寿命がその3割分伸ばせるとした場合、更新寿命延伸率は「0.30」となります。
 従ってこの場合の期待できる更新寿命は19.5年(15年x[1.0+0.3]=19.5年)となります。

部位更新寿命延伸率決め方の実際:

 しかし、現実的にここで言うような自然更新寿命や更新寿命延伸率を厳密に定めることは不可能ですね。実際の設定方法を次に紹介します。

 ・まず、標準回数の修繕を実施することを前提にした更新周期を定めます。(これらのデータは経験的に信頼性のおける多くのデータが既に存在し、比較的容易に入手できます。)
 ・次にこれらの更新周期と修繕回数から最悪の保全状況(つまり、一度も修繕を施さず放置されたままの状況)と正しく(標準修繕周期に順じて)標準的な修繕が施された場合のそれぞれの更新寿命を想定します。
 ・これらの情報が分かればあとは自然更新寿命をどれくらいの長さを想定しておくかだけです。

 例えば、標準更新周期:20年、標準修繕周期:5年の部位の場合、標準修繕回数は3回(〔[20÷5]-1〕= 3回)となります。
 更新寿命延伸率は標準的保全における場合の更新周期(この場合は20年)と最悪保全の場合の更新寿命(例えば15年と仮定しましょう)との差の比率([20-15]÷15 = 0.33 → 33%)が更新寿命延伸率(33%)となります。
 問題は最悪の保全状況の場合の更新寿命をどれくらいに想定するかがポイントになります。安全側とするならば標準更新周期に対してなるべく短めの値を想定しておくことが推奨されます。
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部位劣化顕在化閾値:

 このシステムでは部位の経年に伴う自然劣化が徐々に進行し、その進行がある限界を超えた(つまり、そろそろ次の修繕または更新の準備に取り掛かるべき時期に近づいた、または既にその時期を過ぎてしまっている)ことを知らせる機能が組み込まれています。

 部位の自然劣化の進行度合いは、例えば修繕の場合、ある修繕工事直後の状態を0%とし、次回の修繕実施予測時期までの期間を100%とする値で表されます。このシステムではこの値のことを修繕周期消費率と呼びます。
 部位の修繕に対する劣化顕在化閾値は、この修繕周期消費率が何%に達した時に警告を発するかを予め部位毎に設定しておく自然劣化進行度合いの限界値のことです。  劣化顕在化閾値の設定値の判断としては、不具合が見つかってからでも十分対応措置がとれる部位については高い値(つまり100%に近い値)でも問題はありませんが、一方、不具合が見つかってからでは対応に時間が掛かったり、または不具合が出てからでは問題が大きくなる危険性のある部位については低い値(つまり早期に警告が出るよう)に設定しておくことが考えられます。  

 例えば、ある部位の劣化顕在化閾値を90%と設定した場合は、直前の修繕工事実施後から修繕周期消費率が90%の閾値を超えた以降は、次回の修繕が実施されるまでの期間、長期修繕計画モデルで警告を発し続けます。このことによって、次回の修繕工事の準備に取り掛かる時期を逸することなく、余裕をもった保全の計画準備をすることができるようになります。

 更新の場合も修繕の場合と同様の考え方に基づき、更新周期消費率に対する劣化顕在化閾値を設定することができます。
 
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部位法定耐用年数:

 設備などの減価償却資産の法定上の使用可能な見積もり期間のことです。
 税法では分類して耐用年数を定めており、その耐用年数に従って減価償却をすることになっています。
 建物の法定耐用年数についてもその用途や構造別に細かく法定耐用年数が定められていますが因みに、鉄骨鉄筋または鉄筋コンクリート造のマンションの場合は47年とされています。
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長期修繕計画モデルの作成方法について

 建物の長期修繕計画はそれを構成する部位単位(つまり、建物を構成する部位や設備の修繕・更新工事単位)に作成します。

 部位や設備に対しては、その自然劣化に伴う性能低下を回復させるために修繕(つまり全体または部分補修)や更新(つまり部位全体を新品に交換)が行われます。
 通常、修繕は更新までの期間の途中に幾度か行われます。
 一般的な長期修繕計画では便宜上、部位や設備毎に一定の修繕・更新パターン繰り返しとして計画されますが、その回数パターンは部位や設備によって異なります。
 このシステムでもこの考え方を基本に長期修繕計画モデルを作成します。
 この更新までの修繕をしっかり行うことで更新までの寿命が期待されるのであって、途中の修繕工事の時期を極端に遅らせたり、省略した場合は更新寿命期間が短くなってしまう危険性があります。
 修繕および更新サイクルは通常、建物の部位や設備機器毎にパターンがあります。
 例えば、屋上防水などの更新は、竣工から約16~20年後に行われますが、更新期間までの途中には通常一回の修繕工事が行われ、これらの更新と修繕パターンの繰り返しで維持・保全が建物の生涯に渡って行われます。

 なお、長期修繕計画部位データの入力はシステムに予め登録されている部位データ一覧から部位を選択して登録することができます。システムには建築の外部、内部部位をはじめ、空調、電気、給・排水、防災および運輸設備関連の合計約900種類の部位が登録されています。またユーザが準備した建物の全部位データを直接CSV形式のファイルデータから一括登録することもできます。
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